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~GO!GO! Fly Fishing!~

のぞき

駐車スペースに車を止め、綺麗に雑草が刈り込まれた急斜面のカーブの土手の上からまずは水面に目を凝らすと、いたいた。

岸際には隠れ家となる猫柳が程良く残されており、その軒下に三匹。
上流から岩魚、山女、岩魚と2mおきに整列して水面の何かをついばんでいた。

素早く支度を済ませ、土手際の桜の木の根元にどっかりと座り込んでその食事の様子をしばし楽しむ事にする。
こんな時は見ているに限る。

「んー食えるかな?・・・うぇ!ダメか。これは?・・・どうしようかなぁ。 こっち食っちゃえ・・う゛ぇええまたゴミだ!   今度こそ・・・お、らっきークモうめ~。」
ってのは先頭のイワナくん。

「えーっと?・・・ハイ!ダメ。これは?・・・ゴミですね。 こっちも・・食べられませんね。   今度は・・・お、はい頂きます、はいこれも、美味しいですね。 どうやらアカマダラが出始めましたね。」
ってのがヤマメくん。

「あーんやだーとられたぁ~  あ!あーんまたぁ~もうやだーあいつーー。  あ、これは食べれそう・・・ちっちゃいけどいっか・・くすん・・ぐ!うぇ~!ヤダもおぉーゴミじゃーん。」
ってのは下流のいわなちゃん。

思わず笑ってしまうそれぞれのしぐさ、見るほどに発見があり面白い。
魚種ごとに性格はまるで人間の血液型のように違うし、それぞれちゃんと個性もある。
ゴミを食べたときに見せるイワナの「ウエッ!」とした表情もあくびの仕草も、人間のやるそれと殆ど変わらない。

1時間程だろうか、こっちもついでに昼メシを済ませ少し下流の橋から対岸へと渡り釣り上がる事にした。

で、さっきのポイント手前に到着。
こちら岸には水流がつくり出した川原が広がっていて、その後ろのボサの中からコッソリと川をノゾキ込んで見た。
しかし光の加減で全然見えない。

少しずつ上流に移動しながらボサの中から何度か覗き込むがやはり良く見えない。
ボサを掻き分け淵への流れ込みまで来てみたものの、今度は背景が映り込んでしまって水面下に居るであろう彼らの姿はついに見つける事は出来なかった。

しかし何とかしてサイトで釣りたい。
ドライフライフィッシャーの抑えがたい衝動!

ボサから見つけるのは難しいと判断し、今度はカエルの様にのたのたと川原を進み、カメの様に首を伸ばして水面に目を凝らす。
よし見える!  あれ?・・・いない。

ノゾキの苦労は徒労に終わってしまった。

まあいいや、ここはひと息入れてティペットとフライを取り替える事にした。
この川は釣り人も多く、格好のポイントであるこの場所でスレた彼らを釣る事が難しいのは分かっていたし、なにより今時期の真っ昼間に釣れた例しが無い。
諦め半分、岸際でのんびりとフライを取り替えつつもチラチラと水中を伺っていた俺はしかし、ドキリとした。

いた!いたいた、いた。見つけた。
水面下40cm程の何とも微妙な水深にヤツは居た。
中層を漂い揺らめくそのボディーにパーマークがハッキリと見て取れた。
しかし多分ヤツからもこっちは丸見え、警戒しているに違いない。

全く釣れる気はしなかったが、イタズラ心でたった今結び終わったばかりのアカマダラをヤツの3mばかり上流へぽとりと着水させてみた。

お、フライを見た・・・ ん?おおおうわっ!やりやがった!
なんと!やりやがった。
やりやがったのである、ヤマメが「アレ」を・・・。



・・・何年か前、まだエルクヘアカディス1本だけで20も30も釣れていた頃の話。
県北の大渕と瀬が交互に現れるダイナミックな溪相の川。

のぞき_d0091323_2233582.jpg


大淵のど真ん中、本来ならば大山女が定位しているべき場所で大岩魚がのんびりとライズを繰り返していた。
慎重に近付き、息を整えてキャスト!
まだ儘成らないキャスティングだったが、ラインの先端は奇跡的にもそいつの鼻先へと静かにフライを運び込んでくれた。

やった!出ろ!食え!
ドキドキしながらエルクヘアカディスと大岩魚の間合いを見守る。
(ちなみに当時私はスロットマシンの回転するドラムの【絵柄が見える】くらい目が良かった。)
ゆらりと動いて、ちょっと下流へ移動して、すーっと浮いて・・・食った!
と思ったら、ひょこりと顔を出してそのままくるりと身を翻し向こう側に消えてしまった。

何だ?今の。こっち見てたな、口も開けてなかった。
なんで?今のは何なんだ??

普通こんな状況で大岩魚は水面直下で口を開けた時の吸い込み力でエサを食う。
立ち位置によっては開けた白い口の中が見えるし、飛沫も上がらず鼻先も出さずにフライだけが水面からスッと消えるものなのだ。


・・・その何年か後、アメリカの荒野の中を流れる川。
私はレインボー相手に四苦八苦していた。

のぞき_d0091323_22342713.jpg


この時間、ここで必ずPMDのハッチがあって、通い詰めて今日でもう四日目。
地付きのやつは殆ど一度は釣っていて、流石にもうどの魚も見切ってくる。
フライを替えると一二度見に来るが、それっきり。

どうやら水面下にぶら下がっているフックポイントさえも嫌っているらしかった。
伸ばされる可能性はあったが、試しに細軸の531に替えてみる。

来た、藻の間からゆらりと出てきてフライの真横でイルカのようにひょこりと顔だけ出してそのまま藻の影に隠れてしまった。
何だよそのひょこりって。しかも口開けてないじゃ・ん?んん!
それに見たぞ!確かに見た!!
ヤツはその目の玉をきょろりと動かして、確かに「こっちを見た」のだ。

なんてこった、やっぱり・・・そうなのか。
その瞬間、数年前の大岩魚のあの出来事が蘇り、長い事モヤモヤしていた仮説の結論が導き出された。
そう、老獪な彼らは危険を察知するとわざわざ水面から顔を出し、空気の世界を【覗き見る】のだ。


その後、大岩魚に覗き見られた事は何度かあった。
それは釣り人の猛攻を交わし生き残った経験が授けた知恵なのかも知れない。
しかしまさか、経験の浅い若いヤマメが「アレ」=「覗き(カラ食い)」をやるとは思っていなかったのだ。
いやヤマメというやつは慎重で、顔なんか中空に出さず水面ギリギリから覗く術を既に身に付けてしまっているのかもしれない。
「岩魚のやつらはスマートじゃないね。」
なんて言いながら。

「おい、いわなくん。」
「くんいうなー、さんって言って。」
「いわなさん、人間が来ますよ。」
「え?あっホントだ、ボサのうしろでなんかやってる。そろそろ来るな、気をつけねば。あ、おまえこの場所とるなよー。」
「はいはい分かってます、そんな事しませんよ。」
「なぁーにぃ~ あんたたちー なんかあったの~~。」
「にんげんが来るってさー、にげるじゅんびしとけー。」
「だそうですよ、くれぐれも気を付けて。」
「えーまじー、こわーい。まだちゃんと食べてないのにぃ~~。 おなかすいたなー くすん。」

なるほど、藪の中から覗いていたつもりが覗かれていたのは逆に、こちらの方だったと言う訳か。





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「くれぐれも、気を付けて。」
by koubouquest | 2008-11-13 14:40