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~GO!GO! Fly Fishing!~

初夏の緑に誘われて、山間の集落を縫うように流れる小溪へとやってきた。

遅かった春もとうに過ぎ去って山々はすっぽりと緑の絨毯に覆われていたが、川岸のボサどもはまだ夏の準備が出来ておらず薮こぎで大した苦労をする事も無い。

風は気持ちよく、暑くも無く寒くも無い。
釣り人にとってはすこぶる都合が宜しい季節。

今日はのんびりイワナ釣りを楽しむ事にした。


とりあえず川原へ下りてみる。
ここ暫く雨が無く、減水した川底は黒くぬめり、石は白く乾いて山の緑に比べるとちょっと寂しい風景だったが、枯れ沢から下りてきたと思われるイワナ達が飽きない程度に1番ロッドを曲げてくれる。

沢育ちの彼らは皆スレンダーでヒレが大きく、釣れ上がるたびにそのカエルのようなくりくりとした目玉で私の顔を覗き込んで来る。

傷_d0091323_15104071.jpg


あまりの可愛さに思わず小砂利の上にちょこんと置いてみる。(ごめんねー、でも楽しいのだ。)

と、細身の体を大きな胸鰭で支え体を不器用にくねらせながら歩き出し、流れの中へと帰っていった。
流石は沢の住人、ヤマメには出来ない芸当。


さてチビちゃん達相手だったけどもう十分楽しんだ、そろそろ帰るとしよう。
最後は大場所、右ドッグレッグの岩盤淵で上がる事にする。

ここは以前、賢いイワナ君に遊んでもらったポイントで、大淵であるがゆえにBFK(ベイトフィッシングキーパー)が粘る格好の場所。
しかし彼らの立ち位置では水中から丸見えで、そんなBFK相手に日々鍛えられた住人達は相当に賢くなっているはずなのだ。

なので1段下流から慎重に狙う事にする。
狙いは最初からど真ん中のストライクゾーン、彼がいるはずであろう岩盤のへこみの渦の中。
彼はまだいるかな?

ガイドを擦るラインの音を耳に残し、フライは凝視したターゲットのド真ん中にポトリと落ちた。

完璧。

出た!間を置かずフライは消え水面が尾びれの反転流で盛り上がる。
ほんの1秒にも満たない時間、ココロに刻まれるタマラナイ一瞬!

よしっ、ガシッとした手ごたえを感じ・・・あら?
なんだ、まだ釣られた事に気付いてない様子。
しかしどうやら相手はでかい。

ならばと余ったラインを素早くリールに巻き取り体勢を整え、慌てず焦らずゆっくりと穴から引き出しに掛かる。
ほらほら、ほ~~ら。

と、ようやくヤツは気付き慌て、火が付いたようにがばがばと暴れ始めた。
すかさずロッドを寝かせ、バンブーのしなやかさで最初のひと暴れを凌ぐ。

少し落ち着いた頃合を見計らって今度は強引に寄せに入る。
1番のバンブーロッドは満月にしなり、思わず「う~~ん」と声も出る。

ヤツは慌てて淵の奥へぬんぬんと突っ込み返し、こちらはロッドを天に立てその突っ込みを防ぐ。
大岩魚特有のトルクある泳ぎがグリップを通して伝わって来る。
まだまだ闘志満々、諦める気配は無い。

バットまで絞り込まれたロッドに堪らずリールがジーと鳴く。
「やるねぇ~。」

小渓流でのビッグファイト!
超低番手ロッドはやっぱりオモシロイ。


超低番手と言われるロッドは小さな魚でもファイトを楽しめるだけでなく、そのしなやかさで大物の暴れを吸収し抵抗力を奪い取る能力を持っている。
釣られた魚にとっては力が入らず、スポンジ相手にボクシングしている様なものなのだ。

それになんといってもタルミの少ない超低番手ラインは感度がすごい、魚のキモチまでが伝わってくる。(これは糸電話の理屈と同じ事。)

抵抗もここまで、そろそろこちらが主導権を取らせて頂く事にする。
流れに乗せてじわじわと引き寄せ、ヤツがちょっと気を抜いた瞬間、頭からネットにひねり込んだ。

「よっしゃー! どれどれ、おおでっけえ。」
精悍な顔付きのオス岩魚だ。
ギロリ!と、何とも厳つい形相で睨み返してくる。
「そんなおっかない顔するなよ~。」

ネットからはみ出た彼はばたばたと暴れ、ハナセ、サワルナ、チカヨルナとわめく。
こんなに粗暴でエネルギッシュな岩魚は本当に久々、どったんばったんと手に負えない暴君。

しかし何とか宥めすかして画像を撮らせてもらう。
と、見ると口元にティペットの古傷が。

もしや!?

傷_d0091323_15191720.jpg



家での画像照合の結果、残念ながら例の賢い彼ではなかったが、多分これは1段下の長淵の住人。

当時泣き尺だった彼は今回同様激しく暴れローリングし体中にティペットを絡ませ、上唇に食い込んだフライを外すのにエライ苦労した事を思い出した。
これは多分その時の傷に違いない。

そうかそうか、生きていたか。
ほんの2ヶ月で尺を越す見事な魚体に変貌したこの大岩魚。
FFR(フライフィッシングリリーサー)で良かったと心底思えた出来事だった。

また来るぜー、死ぬなよ。
by koubouquest | 2007-12-30 15:20