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~GO!GO! Fly Fishing!~

モンスター ~ 前編 ~


ハウェアリバー側のキャンプ場にて。ここから1.4Km下流でクルサーリバーと合流する。
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ポイントから約1.5Km上流の崖の上からの眺望。この崖下にも良いポイントがある。
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※上記2枚の画像は、2001年12月NZ釣行時のもの。



2005年1月3日 ニュージーランド 南島

楽しみにしていたマタウラリバーが増水のため全くダメで、思い付くまま気の向くまま、あちこち流離っての釣行8日目。

辿り着いたのは2001年にも訪れた思い出の場所、ワナカ湖から流れ出すクルサーリバー河畔のキャンプ場。
ここのキャンプ場の特筆すべきポイントは、テントを張ったその目の前の流れでお手軽気楽にイブニングが楽しめるという点だ。今日はその2日目。

イブニング前の下見。300m上流からポイント方向(左奥)を望む。
水は綺麗なものの、岸際の草を見ると15cm程度増水している模様。
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逸る気持ちを抑え、暗くなる前にしっかりと準備。ここからテントまで車で2分も掛からない。
この向こう側に話に出てくる三角瀬が広がっている。
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上の画像のすぐ右側の風景。速い流れと弱い流れの差がハッキリと見て取れる。
NZではこの時期、日が沈んでも空が明るい時間帯、プライムタイムが長い。
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はるか対岸に釣り人らしき人影が数名、かすかに見える。
ルアーなのかフライなのかまでは分からないが、時折ライトが付き、そして消える。

頭上には幾億満天の星が煌き始めていたものの、のんびり眺めている余裕などは無く、今は水面の空明かりに浮かび上がるフライのかすかなシルエットに集中していた。

ここはニュージーランドの南島。ワナカ湖から流れ出す川幅100mはあろうかと言う大河、クルサーリバーの岸辺。
私達は空明りの下、腰まで水に浸かってイブニングフィッシングに興じていたのだった。

しかし16インチ(40cm)前後は飽きない程度に釣れて来るものの、満足のいくサイズが出てくれない。
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何とか20インチ(50cm)オーバーを手にして、スッキリ終了!
としたいところだったが時間も時間だし、さてもう上がろうかと言う頃だった。

覗き込んだ時計の針が8時を指した丁度その時。
フライのあるべき方向で、「ちゅぽん。」と音と気配がし、軽くアワセを入れてみたのだった。

あ、食ってんじゃん!

感触としては待望の20インチオーバー。
すかさずラインを引き絞り、再度しっかりとアワセを入れて、本日のラストを飾るであろう魚とのファイトに備えた。

状況としてはこうだ。
私は沖に向かって突き出た水中三角瀬の中ほど、岸まで5mの所に立っていた。

対岸までは80m程だろうか、右から流れ込む本流は正面の崖に当たり、流れを左へと大きくカーブさせ、そこに大きな深みと渦を作り出し、深みからの流れ出しの左側には、膝上ほどの深さの水面下に砂で出来た円形のマウンドを作り出し、その周囲ぐるりには左巻きの大きな反転流を作っていた。
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※画像はGoogle earthから、2012年3月の物を借用。
現在の衛星画像では、対岸の崖は綺麗に護岸され、流れはスムーズになって深みも渦も姿を消し、水中マウンドは形を変えて水面から顔を出してしまっている。
また、暦年の画像を見ると、それらが常に変化している様子が見て取れて面白い。


「でたぞ~」
「あーそう、でかいー?」
「おーう、デカそうだー。 これであがるー」
「はーい、りょーかーーい、わたしもやめるー」

妻は私の右後方、速い流れのキワで粘っていたが、ついに大物を上げる事が出来ずにちょっと残念そうな声。
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前日のイブニングで妻に出た、まあまあサイズのブラウン。

オレはそのデカそうなやつを後ずさりしながら引き寄せて彼女に見せつけ、ニンマリ顔で本日終了となるはずだった。 ・ ・ ・ だったのである。

ん、んんん? 動かない。 なんで?

「デカそーだー」
「はーい、ゆっくりどーぞ~」

なんか変だ、明らかに生命感はあるのにズシリとして動かない。


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日本と違って海外釣行で痛切に感じる事は、魚を掛けた後のやり取り駆け引き、ファイトが重要になってくると言う事だ。

日本のように、魚を掛けてしまったら即キャッチ終了。と言う事は少なく、掛けたは良いが大物に川中を引き摺り回され、揚げ句フックを外されたりラインを切られるなどはしょっちゅうで、技術と体力を使って魚と対峙するそれは、まさにスポーツと言っても良く、またフィッシングプロセスの半分を占めると言っても過言ではない。

要するに海外では、日本では味わえない釣り本来の醍醐味を、じっくりたっぷり味わえる、と言う事なのだ。


右側に本流の速くて分厚い流れ、左側には反転流からの流れ出し。
その二つの流れに挟まれた三角瀬の真ん中に立ち、暗闇に渦巻く不気味な流れを正面に、完全なダウンクロスとなる形でその戦いは始まった。

まずは余ったラインを素早くリールに収納し、ロッドを立てて徐々に引っ張り込んでみる。
おーし、ちょっと動いた、よしよし来い来い。

分厚くうねる流れのその奥深くで、ようやくぬるりとした感触があり、そいつはなんとか動き出した。
ゆら~りゆらり、不気味なほどに落ち着いている。

ロッドをゆっくりと立てて引き寄せ、そして下げながら素早くラインを巻き取る。これの繰り返し。
流れに逆らって引き上げるのだから、ポンピングは慎重に行わねばならない。
相手を驚かせないように、刺激しないように、ゆっくりとー、ゆっくりとー。

レインボーならばまずジャンプしたり、大暴れしたりダッシュすだろうし、どうやらデカいブラウントラウトのようだ。
前回はレインボーも何匹か釣れて来たが、昨日も今日も殆どブラウンしか釣っていない。

ゆら~りゆらり、ゆっくりとーゆっくりとー。
しかし水圧もあるだろうが、やけに重い。

リーダーまであと少し、というくらいに巻いた頃だろうか、5m程離れた岸まで後ずさりして引き込もうと不用意に動いた瞬間だった。

ズル、ズルズルズルギギギ、ニャ~~~~~~~~ッ!
突如身を翻したヤツは、暗闇にリールを鳴り響かせながら、右側の分厚い本流へするりと乗り込んでしまったのだ。

しまった!油断した、止められない!!

ニャ~~~~とリールは鳴き止まず、ラインがズズズずるずると引き出されていく。
あっという間にラインの繋ぎ目が指先を擦り抜け、バッキングラインに変わってしまった。

ヤバイ、ヤバイヤバイ! 止まれ! とまれぇ~~ええ!!
指先とガイドを擦りながら、火傷しそうなぐらい猛烈なスピードで出て行くバッキングライン!

何てこった・・・・リールがどんどん軽くなって行くなんて、生まれて初めて味わう感触。
なんだかとっても恐ろしくなってきた。

しかし分厚い流れに乗ってしまったヤツに、止まる気配など全く無い。
そういえば確か、バッキングラインは50m程しか巻いてなかったような・・・。
大慌てでドラグを締め直すものの効果無し。

ヤバい、本当にヤバい、バッキングが尽きる!!
右に寝かし込んだロッドのティップを水中に突っ込み、ダメもとで水の抵抗を追加してみるものの、それもまさに無駄な抵抗、止める事などこのスピードでは敵わない。

ああもうダメだと思った頃、ふと暴走が止まった。
ラインに掛かる流れの重みと、深みに沈んでいくヤツの動きが伝わって来た。
どうやら終点らしい、距離にして60mはあろうか、とりあえずはしのいだ。

ふぅ~~と一息。しかし、ヤバかった・・・・。

今回持ち込んだロッドは、初めて4角で作った記念すべき2本の内の1本。
4角・ソリッド・ストレートバット・7’04”の4番と言うスペックの、地元の近場で使うには相当強めのバンブーロッドだった。

しかし、NZに来てから20インチ(50cm)前後を何本か取ってはいたものの、50cmオーバーなんて意識していなかったため役不足なのは否めない。
実はもう少ししっかりとしたロッドを持って来たかったが、完成が間に合わなかったのだ。

ティップは良いとしても、バットパワーはもっとあって良い。それとやっぱり長さは8’00”以上は欲しい。長さと重さとアクションを考えると中空加工は・・・・。
ファイト中にも拘らず、海外用ロッドの構想があれやこれやと浮かんでくる。

「どおーー?」
岸の方からのんびりした声が響く。

「ヤバかったー、はしられたー。 それにー、思ったよりもデカイっぽーい」
「あーそう、がんばってねー。 ばらすなよー」
「はーーーい」

ちょっと落ち着いた。


ロッド先端が指し示す遥かその先の、暗闇の深淵で息を整え反撃を伺うモンスター。
長く伸びたバッキングラインが、黒いうねりの奥底に潜む彼の息遣いと尾びれの振幅を伝えてくる。

今まで釣った数々のブラウンの中でも特に力強く、そして不気味なほどに落ち着いている。
果たして、24インチ(60cm)超えか?夢の28インチ(70cm)なのか?

海外釣行での「嬉し度」は、海外魚のサイズを半分にして考えると日本魚のサイズと同等の「嬉し度」になる。
つまりNZやUSAでの30cmは15cmのチビッコ、40cmは20cmの普通サイズ、50cmは25cmの小喜びサイズ、60cmが大喜びの30cm、尺物といった感じだ。

とにかく大物である事は確かだ。
コイツは絶対に獲る。
慎重に行く。
決めた。

ロッドを立てて、「じゃあ行くぞ」とヤツに信号を送る。
ゆらり、「ソウカ」と返事が返ってきた。

ラウンド2のスタート。

ずいぶんと下られてしまったが、地道に引き寄せるしかない。
途中イヤイヤをして暴れられないように、優しく適度なテンポを保ち、しかし程良く休憩を入れながらポンピングを繰り返して引き寄せに掛かる。
そぉーれグイーン、チョリチョリ。グイーン、チョリチョリ。グイーン、チョリチョリ。

先ほどのやり取りから、フックはどうやら鼻先近辺の軟骨に深くガッチリ掛かっていると思われた。
掛りが浅ければもうとっくにバレてるし、口中の舌周りだったらその痛さで大暴れするし、左右どちらかの蝶板だったらその力に反発し、横っ走りしてとっくに切られているはずなのだ。

外れる事は多分無い、と信じたい。

それより心配なのはティペットだ、このサイズにフロロの5Xではちょっと心許無い。
しかも何匹か釣り上げた後なのでキズが付き、強度は確実に落ちているはずだ。
慎重に行かざるを得ない。

そしてポンピングを繰り返す事約10分。
何とかバッキングラインの繋ぎ目までゲインし、先ほどヤツを喰わせたポイントまで差し掛かった頃、またしても動きが止まった。

おい、どうした?

ロッドを煽ったり、コンコン叩いて刺激を加えてみるが、ゆるゆると左右に動くだけで寄って来ない。
どうやら、浅瀬と深みの境目にあるカケアガリに張り付き、踏ん張っている様子。

しかしここからでは距離があるため、このまま引っ張り上げるのは難しい。
無理して引っ張れば暴れて走られ、今度こそゲームオーバーになってしまうだろう。
う~~む、どうしたものか・・・・。

暫らくの間、膠着状態。

先に痺れを切らしたのは俺。
やれやれ、この真っ暗闇の中、沖へと進ん行って引っ張り上げるしかないか。
覚悟を決めて、流れを後ろに感じながら前に出た。
実は、左側にも反転流が作り出した深い谷があり、結構怖いのだ。

砂で出来た三角瀬の端っこを足先で探りながら、慎重にじわじわと進んで行く。
こんな時、ヒップウエーダーである事をちょっと悔やむ。

コイツ、怖い思いさせやがって! 絶対獲ってやるからな!!

やっとの事で三角の先端付近まで進み、両足を踏ん張って慎重にリフト!
おっ?暴れると思いきや、意外とあっさり動き出した模様。

よ~~~し、よく出た、上手く行った。
すかさずテンションをちょっと抜いて、優しく上流へとリードする。
ゴネるでもなく暴れるでも無く、右に左にゆらゆらうねりながら付いて来た。

よしよしいい子だ、さぁおいで、帰るよ。
と突然、左側の反転流へぶわんと突進されてしまった、おーーやばい!
って言うのはウソ、実はそんなのも想定内、計算済み。

作戦としてはこうだ。
左側の反転流へと行った場合は、そのままヤツを送り込み、プレッシャーを掛けつつ反転流の深みに留まらせる。
オレは慌てず騒がずゆっくりと岸まで戻り、反転流に逆らって泳ぐヤツから徐々に体力を奪い取り、本流から離れた安全な場所でじっくり落ち着いて獲る、と言う寸法。

そうとは知らず、ぶわんぶわんと尾っぽを振って反転流を泳ぐモンスターブラウン。
しめしめこっちの思うツボ、しっかりと疲れてちょうだい。

よし、岸までたどり着いたゾと・・・あれ、 ラインが・・・?!
それは一瞬の出来事だった。

ロッドを握った手からヤツの手応えがふと消えて、暗闇にぶら下がったラインが左から右へと目の前をスーッと横切ったかと思うや否や、リールがまたもやニャーーーーーーー!と悲鳴を上げた!
思わずオレも「うわぁーーーーーーーーーっ!」と叫ぶ!
暗闇にリールと俺の叫び声が響き渡る!
俺 「やめてぇええ~~~~~~~~~~~っ!!」
リール 「ニャニャニャアア~~~~~~~~ッ!!」

リールのドラグだけでは間に合わず、スプールに軽く手を当てて抵抗を掛けるがこれ以上は無理、ティペットが切れる。
あっという間に繋ぎ目が指先をすり抜けて、またしてもフローティングラインが暗闇へと吸い込まれて行く。

ラウンド2も俺の負けが確定した。

何とした事か、ヤツの方が一枚上手だった。
こちらが体勢を整えようと、ロッドを持ち替えたその一瞬の隙を突いてするり反転、あっさり高速に乗り込みやがったのだ。
まるでこちらの動きを、ラインからロッドを通して逆に読み取っていたかのようだ。全くもって侮れない。

恐ろしいスピードでスプールが逆回転し、甲高い悲鳴が止まらない。
ニィイイイイ~~~~~~~!
そろそろ終点だろ、おい!
ニィイイイイ~~~~~~~!
おいおい、おい!
ニィイイイイ~~~~~~~!

ラウンド3は既にスタートしていた。


~つづく~


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さて何位? ┐(^_^;)
by koubouquest | 2014-12-22 16:40