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~GO!GO! Fly Fishing!~

秘密の岩魚


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大岩魚を釣り上げると、子供の頃に体験した大事件を思い出します。


小学校3・4年の頃だったでしょうか、当時私は岩手県は姫神山麓の城内と呼ばれる山村に住んでいました。当然遊びの一つとして釣りもしていた訳ですが、そんな或る日、釣り人だったら間違いなく口から心臓が飛び出る程ビックリする光景に出会ってしまったのです。

それは、自宅から相当離れた下流域で一人川遊びをしていた時の事です。ふと堰堤下の溜まりを覗き込み、木漏れ日に煌めく水面の下に無数に漂う何かを見つけたのでした。最初はゴミか何かだろうと思っていたものの、近づいてよーく見てみたら、水中に漂う無数の何かは木クズとか葉っぱとかゴミなんかでは無く、なんとそれは深みを埋め尽くさんばかりの魚の群れだったのでした!

それも10とか20とかではなく、200か300かという程の岩魚の大軍団が堰堤下の深みに整然と並んで漂っているのを見付けてしまったのでした!しかもその中心に陣取っている何匹かは、明らかに一升瓶ぐらいはあるのです。それはもう腰を抜かさんばかりの驚きの光景がそこにあったのでした。

ハッと我に帰ると当然の事ながら大急ぎで家まで戻って釣り竿を掴み、取って返して早速狙う事にしたわけです。ロッドは愛用の六尺丸竹万能竿の二本繋ぎ、ラインはヨレヨレのクインター1号、フックはヱビスの袖針金5号にそこらにいたバッタを捕まえて背掛けにし、なるべく大きな奴をめがけてそれっ!ポチャリ!
・・・ドキドキ・・・あれっ?アレッ?
一発で来るもんだと思っていたら、殆どが見向きもしてくれません。ちょんちょんチョンとアクションを付けてもダメ。ならばと勢い良く水面に叩きつけたら小さなイワナがパチャンとして、こちらも思わずビックリして立ち上がったもんだから大軍団に気付かれてしまい残念彼らは堰堤直下の白泡の深みに消えてしまったのでした・・・ア~~ア。

次の日、皆を驚かしてやりたかったもんだから、岩魚の事は一切秘密にしてこっそり一人でやってきました。
ボサを掻き分けそーッと覗いて見てみたら・・・おやっ?なんと、あれだけいた魚の数が五分の一、いや十分の一程に減っているではありませんか!いったいナゼ?と思いつつ堰堤の上の流れに目をやるとなんと、居ました居ました。相当の数の岩魚がたったの一晩で堰堤を越えてしまっているじゃあ~~りませんか!目を疑うような光景とは正しくこの事。

その堰堤というのは杉の間伐材で組まれ水面に対して垂直に作られた構造で、水面間の高低差は当時の私の身長より遥かに高かったはずで、それをまさか越えて行くなんて想像すら出来ませんでしたが事実、彼らは目の前の困難に立ち向かい、その2mはあろうかという堰堤を乗り越え、黙々と前進を続けていたのでした。

岩魚は産卵のために集団溯上をするのは実際に何度か見て知ってはいました。険しい山の頂にある牧草地の細流に群がる岩魚達は、いったいどうやってここに来たのかといつも不思議に思っていましたが、今こうして子供心ながらも不可能と思われた堰堤を実際に乗り越えた岩魚達のその姿を目の前に見ていると、釣り上げて皆に自慢してやろうなんて思っていた自分がとても小さく愚かしく思えてきて、今度は釣る事が出来なくなってしまったのでした。岩魚達の偉大さに竿を握り締めたまま唯只見つめ佇んでいたのでした・・・。

・・・暫らくしてふと声を掛けられ振り向いたら、シンコの母ちゃんでした。しかしその後の事は殆ど覚えていないのです、自分の中で何かがはじけてしまっていたんでしょう・・・。

翌日、学校が終わってからまたしてもこっそりと一人でその場所に向かってみたのでした。今でもはっきりと覚えているのは、その時の怒りと悔しさと刈り取り踏み荒らされた川岸の熊笹の光景です。そこで何が行われたかはすぐに分かり、後悔と懺悔の気持ちでしばし呆然と佇むしかありませんでした。道路から丸見えとなった川面に魚の姿を見付ける事は叶いませんでした。

そして次の日、車に乗せられて村内にある店の前を通りかかった時、今度は全身が凍り付く程の異様な光景が目に飛び込んで来たのでした。それは、店の前に横にして立て掛けてある二枚の襖に、大小夥しい数の岩魚の魚拓がなされた障子紙が張ってあり、更にその下に並べられた杉板には同じ数だけの腹を割かれたばかりの岩魚達の死体がごろごろと並べ置いてあったのです!
何とした事か!!その光景を見た瞬間、大小構わず一網打尽に命を奪った大人達が恨めしく、岩魚の秘密をバラしてしまった自分が情けなくて悔しくて無念でなりませんでした。
ほんの一瞬でしたが一番大きいものは64cm、数は124とか書かれていたでしょうか、その全てはあの堰堤を苦労して超えてきた岩魚達です。車の中から見えたあの瞬間の光景は、これまた鮮やかな映像として私の頭の中に張り付いたまま未だに取れそうにありません。



しかしそれでも性懲りもなく、岩魚に遊んでもらうのが大好きで大好きで堪らないのです。
釣りとはそういうものなのでしょう。




それから?十年後・・・。

お~~~ッ!まだ居たか、久しぶり!しかし釣られず良くぞ生きていてくれました。尺になってから今年で3年目かぁ、またまたデカくなったなぁ・・・おっと!危ない、周りに誰も居ませんねぇ~~っと。


そうです、多分そうなんです。昔から大物を釣り上げると周りが凄く気になったり、大釣りすると罪悪感を感じてしまったり、釣った場所や数やサイズを公表するのが吝かになってしまいがちなのは、多分あの日、岩魚の秘密を漏らしてしまって心を痛めた小さな自分が、自慢したくなっている私のベストの裾を引っ張りながらこう言っているからに違いありません・・・。















秘密の岩魚_d0091323_1629384.jpg

「ねぇそれ、ヒミツだよ!」   ・・・ってね。    
      
by koubouquest | 2011-06-14 17:27